百人一首
2010年6月28日月曜日
0020の美学
夕されば 門田の稲葉 おとづれて 蘆のまろやに 秋風ぞ吹く
音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ
高砂の をのへの桜 さきにけり 富山のかすみ たたずもあらなむ
憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを
契りおきし させもが露を いのちにて あはれ今年の 秋もいぬめり
0019の美学
もろともに あはれと思へ山桜 花よりほかに 知る人もなし
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなくたたむ 名こそをしけれ
心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな
あらし吹く 三室の山の もみぢばは 竜田の川の 錦なりけり
さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこもおなじ 秋の夕ぐれ
0018の美学
いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな
夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ
いまはただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木
うらみわび ほさぬ袖だに あるものを 恋にくちなむ 名こそをしけれ
0017の美学
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの あふこともがな
めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな
有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
0016の美学
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな
嘆きつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる
忘れじの ゆくすえまでは かたければ 今日を限りの 命ともがな
滝の音は たえて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞えけれ
2010年6月18日金曜日
0015の美学
由良の門を 渡る舟人 梶を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな
八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
風をいたみ 岩打つ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな
御垣守 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
0014の美学
恋すてふ 我が名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
あはれとも 言ふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
0013の美学
夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづくに 月宿るらむ
白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな
浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は 物や思ふと 人の問ふまで
0012の美学
朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり
久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
人はいさ 心も知らず 古里は 花ぞ昔の 香ににほひける
0011の美学
小倉山 峰のもみじ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ
みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花
有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
2010年6月11日金曜日
0010の美学
今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ
月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに
名にし負はば逢う坂山のさねかずら 人に知られで来るよしもがな
0009の美学
立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ
難波潟短き蘆のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや
わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ
0008の美学
わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣船
天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ
筑波嶺の峰より落つるみなの川 恋ぞ積もりて淵となりぬる
陸奥のしのぶもぢずりたれゆえに 乱れそめにしわれならなくに
君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ
0007の美学
鵲の渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける
天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも
わが庵は都の辰巳しかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり
花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬもあふ坂の関
0006の美学
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき
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